“ストレス”と聞くと、当たり前のように『精神疲労』を思い浮かべる人が多いのではないかと思いますが、そもそも“ストレス”は物理系・物質工学系分野で用いられていた用語で、物質を変形させる際に加えられる“力”を意味していました。
医学分野でこの言葉を最初に使用したのはオーストリアの生理学者ハンス・セリエで、1936年に「ストレス学説」として発表したのが始まりです。
人が寒冷、外傷、疾病、怒りや不安および精神的緊張等、所謂(いわゆる)ストレッサーに曝(さら)された時に、これらに適応しようとして、ある一定の反応が起こることを発見し、部分的な反応を「適応症候群」、全身的な反応を「全身適応症候群」と名付けました。
そして、症状の経過順序を
A 警告反応期 (ショック相→抗ショック相)
B 抵 抗 期 (生体防衛反応の完成)
C 疲弊期 (適応エネルギーの消耗→再ショック)
に分け、
ストレスを受けやすい性格については
a 真面目・神経質タイプ
b 感情抑制タイプ
c 愛他的・気配りタイプ
d 内向型こだわりタイプ
であるとしました。
また、ストレスを受けやすい状況として
Ⅰ 近親者の死や目標を見失った時など、喪失感が強まっているとき
Ⅱ 睡眠不足や過労、体調不良など、身体的に調子がよくないとき
Ⅲ 転居や転勤などの環境の変化
Ⅳ 女性は、出産や更年期などホルモンバランスが変化する時期
を示し、
更には、ストレスを受けやすい環境を
ⅰ 自分が価値ある存在であると認める感覚を抱けない環境
ⅱ 人からの協力やサポートを得にくい環境
ⅲ 絶えず身体的・心理的に脅かされ、安心感を維持できない環境
としました。
そもそもハンス・セリエは、第三の性ホルモンを探すことを目的に研究を進めていましたが、様々な障害(寒冷、外傷、疾病、怒りや不安および精神的緊張等)に曝(さら)された時にも症候群を発症することに気付き、「ストレス学説」として纏(まと)め上げました。
さて、冒頭にも記したように、そもそも“ストレス”は物質に加えられる“力”を指す訳ですが、圧力を加えることによって物質が変形するのだとすれば、図1のように変形が完了した段階で力(ストレス)は解放され消失することになります。しかし、変形に至るまでの間は、図2のように原形を維持しようと内側からの力が拮抗して溜まり続け、これが所謂(いわゆる)「ストレスが溜まる」状態です。
多くの場合、まずはストレスの回避を試みますが、図2のように回避が困難な場合に溜まり続けるストレスを解放するためには、図1のように“受け容れてしまう”という方法があります。しかし、“受け容れる”ことは四角が四角でなくなることでもあり、精神に被るストレスである場合に自分らしさ(アイデンティティ)を失うことは受け容れ難く、現状を維持し続けようと図2のように対抗して苦しむことになります。つまり、どんな人にも保守(維持)の心があり、『自分を変えたい』『変わりたい』と訴えるカウンセリー(クライエント)でさえ、そう簡単に“自分”を放棄することはできません。だからこそ、心理カウンセリング技術を有する専門家に助けを求めもするのです。
ただ、図1のように外部からの力をしなやかに吸収して変形を受け容れ、自分らしさに取り込んでしまえる人もいて、そうした柔軟な心の持ち主にはカウンセリングは必要ないとも言えるのでしょう。
しかし、意識では受け容れているつもりでも、無意識が抵抗を続けている場合に症状を身体化させて心身症を発症する場合もあり、暫く経過を見てから判断する必要があります。
外部からの圧力に抵抗を感じストレスを溜め込んでしまう図2の人は、圧力(ストレス)を適度に回避(休暇や旅行他)しつつ、溜まった力=抑圧されたエネルギーをスポーツや芸術、学習他で昇華させたり、スポーツ観戦やカラオケ、観光やゲーム(リクリエーション)、リラクゼーションや適度な飲酒など、所謂(いわゆる)健康的退行によって解放させ、心の凝りを解(ほぐ)して“癒し”を得ることでバランスを保つと良いでしょう。せっかく溜まった(貯まった?)力=エネルギーであれば、溜め込んで病気(適応症候群)を呼び込んでしまうより、上手に発散したり活用して己の成長に用いられるなら、その方が良いですよね。
ただし、避け難いストレスであったり、耐え難いストレスである場合や既に神経症症状他を伴っている場合には、信頼のおける専門治療機関等で心理カウンセリングを受けられることをお勧めします。