“自己治癒力”という言葉があります。小さな怪我や少々の病気であれば、放っておいても身体が自ら必要な物質をつくったり代謝し、元の状態に戻そうとするホメオスタシス(恒常性維持機能)による働きです。
これになぞらえて、私は“自己発達力”というものもあるんじゃないかと考えています。ベースとなるのはジャン・ピアジェ(スイスの発達心理学者)の発達論。「子どもは(発達に)能動的な存在である」という考え方で、私たちが園で子どもと向き合うときの実感でもあります。
“発達”とは「発展的に複雑化する」ことを言います。ピアジェは、子どもには生来“発達したい欲求”が本能的に備わっていて、その欲求に応える形で物的・人的環境を整えることが「教育」「養育」「療育」に求められる発達支援ではないか、と述べている訳です。余談ですが、ピアジェの発達論は、同時代を生きた巨星・ジークムント・フロイト(ドイツの精神医学者で臨床心理学者)の「子どもは(発達に)受動的な存在である」に対する、発達心理学者としての立場(アイデンティティ)を明らかにするものだったのかもしれません。
さて、良い治療が“自己治癒力”を最大限に引き出すことであるように、子どもが生来持っている“自己発達力”をいかに引き出せるかが、私たちが発達支援を行っていく上での重要な鍵になるのだろうと、そんな風に思わされています。
子どもにとっての最善の環境、最善の支援とはどういったものか、保護者の皆様と一緒に考えていけたらと思います。
ところで、平成28年に改正児童福祉法が施行されました。いちばんの改正点は、児童が「保護の対象」から「権利の主体者」に変更された点です。日本は世界に比べて “児童の権利条約” の批准に20年もの後れを取りましたが、ようやく児童福祉法の法文に「“児童の権利条約”に則る」ことが明記され、「子どもの最善の利益の追求」が謳(うた)われました。そこに障礙の有る無しは関係ありません。すべての子どもに成長・発達する権利が保障されなければならないことが明文化されたのです。これは、我が国の児童福祉の歴史において大変画期的なことで、前職在職中に全国協議会を通じ20年近くに渡って国に働きかけ続けた実りの一つでもありました。
私たち福祉に携わる者には、アドヴォケーターとしての責務が課せられています。それは、物言えぬ子どもや利用者が有する権利や思いを代弁し、擁護する働きです。「制度に子どもを合わせる」のではなく、「子どもに制度を合わせていく」努力もまた、私たち(役職員、保護者)に課せられる責務なのだろうと思います。
父母の会と学園、そして法人が共に手を携え、力を合わせて子どもたちの未来を創造していきたいと考えます。
(※自己治癒力は自然治癒力とも言われます)